ユルリの勾玉考 その2

随分久しぶりですが、勾玉考その2をやってみようと思います。
ついこの間までは溢れるほどの資料がすぐそこにあったのに対し、
今手元にある文献は本当に些細な物なので、あまり学術的な内容には踏み込めませんが。

前回の最後で、勾玉の成立について考えたいというようなことを言っていましたが、
資料が無くて出来ないので、別のテーマで。

第2回「勾玉の形の意味」

勾玉はどうしてあんな形をしているのか?
勾玉の形は何を表しているのか?

古来多くの人々が、食いついてきた歴史ロマンのひとつと言えましょう。
インターネットでちょちょいと検索すると、「月」、「動物の牙」、「胎児」、「太極図」などなど、
たくさんの説が、もっともらしい説明と共に紹介されています。

中学生の頃は、「どれが本当なの?」と頭を悩ませた物ですが、
今はネット上にある歴史関係の記述は信用しない方が良いという立場をとっているので、
「どこどこのサイトのどの説明が良い」と言うことは申しません。

当然、この記事をご覧になった方も、決して鵜呑みにされないようにご注意下さいませ。
さて。
諸説ある「勾玉の形の意味」ですが、上に上げた中で考古学者に不人気なのが
「太極図」・「胎児」・「月」の3つです。

太極図は、前回も書きましたが太極図の成立の方が勾玉の成立より遅いので除外できます。

次に胎児ですが、昔の人が胎児を目にする機会があったのかどうか、わかりませんよね。
写真で撮ったヒトの胎児に似ていないこともないけど、それは現代人の勝手な連想に過ぎないかも知れないわけです。
もしかしたら、昔から人間の胎児の形がよく知られており、それを形にしたのかも知れませんが、あまりに不確かなので除外したい・・・というのが研究者の心情です。

それから、月。
確かに、月は信仰の対象になりそうなイメージがあって、それっぽいのですが。
三日月の形だと言い張るにしても、正直、無理がありません?
だって似てないもん。
まん丸ビーズの方がまだ満月に近い分月っぽいですよ。


では、考古学者の多くは何を支持しているかというと、「動物の牙」説です。
その理由は、
・動物の牙(犬歯)は目にする機会が多い
・クマの犬歯などに孔を開けた装飾品が実際に発見されている
・勾玉の原型も、牙のアクセサリーも日本の縄文時代に存在し、両者の間に因果関係を認めることが可能である。
それほど説得力もありませんが、「それっぽいから胎児」とか、「ロマンがあるから月」というのよりは納得できるかと思います。

ちなみに、『勾玉』(水野祐 著)という専門書では勾玉の形が月であるとしています。
勾玉勾玉
(1992/07)
水野 祐

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神話の研究をベースに、それなりに理論的な説明がされていますが、
考古資料の検討が不十分な感じは否めません。
この本が書かれた当時は、まだそれほど考古学の研究が進んでいなかったせいもあると思いますが、出土品の勾玉を神聖視するあまり、「資料」としての評価が行われていないという印象でした。


話を戻します。

考古学者は、先に挙げた中では「牙説」をとると言いましたが、もう一つ有力視されている説があります。
それは、「鈎(かぎ)説」。
魂が身体から抜けでないように引っかけてとどめておく鈎の役割だったと言う説です。
ちょっと聞くと意味不明ですが、中国に今も似たような思想があるそうです。
詳しく書くと長くなるので、興味のある方は()の文献を探してみて下さい。
(「魂の色ーーまが玉の起り」 金関丈夫 1975 『発掘から推理する』(岩波現代文庫復刊2006))

この説の評価すべき所は、大まかに言うと以下の通りです。
・勾玉が「何の形か」だけでなく、「形の意味」を説明している。
・単なる憶測ではなく、民族例が確認されている。
・縄文時代の終わりから弥生時代にかけて勾玉が普及したわけを、大陸文化の流入とあわせて矛盾無く説明している。

以上のことから、私もこの説が一番しっくり来ると思っていたのですが、
どうしても納得いかない部分があります。

縄文系勾玉はともかく、弥生定形勾玉って、
鈎にしては、ずいぶんとまるくねえか?
ということ。
そして、鈎の役割が重要ならば、どうして紐を通す部分はわざわざ丸く形作られるのか、ということも。

下の図は、

左:縄文時代晩期に九州で見られる勾玉
中:弥生時代中期には成立したとみられる、弥生定形勾玉(主に九州で出土)
右:古墳時代中期頃にから見られる、量産向けに形が単純化された勾玉

を、きわめて大雑把に表した物です。


縄文時代の勾玉は、確かに鈎っぽい。これは魂がよく引っかかりそうです。
しかし、弥生定形勾玉は、縄文時代の名残はうかがえるけど、何か引っかかりが悪そうな感じ。
ただ、上に挙げた文献では、「鈎」の他に「縛り付ける」という思想も紹介されています。
弥生定形勾玉では、勾玉自体が魂に見立てられ、三本の線は、それを縛り付けるのに使われたと解釈すれば、「魂をつなぎ止める」用途に変更はないと思われます。
でもやっぱり、あんまりきれいに決着が付いていないような、もやもやした気分が残ります。

それで、ここからは完全に私の妄想になるのですが、
勾玉は、「かぎ」と「まる」の部分があり、それぞれに何らかの意味が与えられていたのではないでしょうか?
金関氏の説で言われるように、「かぎ」の役割だけなら、頭の部分をわざわざ丸くする必要がないのでは?・・・と言う気がするのです。
弥生時代の勾玉作りでは、まず石を直方体に割って、そこから形を整えていきます。
もしも「かぎ」だけが重要なら、ヒスイのように硬い石を苦労して「まる」に削らなくても良いはず。
それをあえてまるくしたということは、「まる」にも何か意味があったのではないかと思います。
そして、弥生時代には「かぎ」よりもむしろ「まる」の方が重視されたために、弥生定形勾玉はあのような形になったのではないでしょうか。
その「まる」が何を意味するのか、それは残念ながら想像も付きませんけれど。

で、その変化を図にしてみると・・・

左:「かぎ」と「まる」がほぼ等しく(もしくは、「かぎ」の方がやや強く)意識されていた

中:後に、「まる」がより強く意識されるようになった(弥生時代には断面もまるくなる)。また、「しばりつけ」の要素が加わった。

右:「かぎ」「まる」(もしかしたら「しばりつけ」も)の持つ意義が忘れられ、”それっぽい形”として表現されるようになった。



ちなみに「しばりつけ」の要素は縄文時代の名残にも見られますが、「かぎ」と「まる」の勾玉に取り入れられたのは弥生時代になってからと言えるでしょう。




だらだらと書いて、結局何が言いたいのか分からない文章になってしまいましたね。
最後に言っておきたいのは、次の2点です。

まず、勾玉の形は、現実にある物体を模倣したものでは無いかも知れないこと。
例えば、「かぎ」のと同じ意味(役割)で動物の牙に孔を開けて頸からかけていたとします。
しかし、それでは不十分で、「まる」の役割を付け加える必要が生じ、その結果勾玉が誕生したとします。
この場合、牙は「牙」そのものではなく「かぎ」なのですから、勾玉は「牙の形」ではなく「かぎの形」というのが正しいでしょう。
・・・・・・あくまで、妄想と仮定の話ですよ。


もう一つは、勾玉は時と共に形を変え、その意味・役割も変化した可能性が高いこと。
最初の形に、新しい要素が加わり、形・意味が変化し、やがて忘れられていく。
縄文時代から古墳時代まで、「勾玉」と名前の付く遺物は多数存在しますが、形や材質、さらには見つかる場所もばらばらです。
ですから当然、そのどれもが同じ意味・役割を持っていたはずがありません。
前回も似たようなことを言いましたが、一口に勾玉と言っても、それを身につけた人の思いはそれぞれ違うはずです。






ここまで読んで下さった方・・・・が、いらっしゃるとも思えませんが、
読んでくれてありがとうございました。
そして、本当にお疲れ様です。

次回があるのかどうかは分かりませんが、また主張したいことが思い浮かんだら、是非書きたいと思います。
00:04 | 考古学 | comments (2) | trackbacks (0) | edit | page top↑
寄せ植えを作りました。 | top | お慕いしていますーーきっとこれからも。

comments

# お邪魔します!
こんにちは! 手ブロではお世話になってますucdです、お邪魔しますー
これこれこれこれこれこれ!! こういうの読みたかったんですよー!!!! 実は過去記事見て続きをリクエストしようかと思っていたぐらいです。うれしい〜vvv
私も勾玉について浅ーく調べたりしたことがあるのですが(なぜってもちろん勾玉三部作を読んだからですええミーハーですとも)、どうも納得いく説明に行き当たらず……
「かぎ」説は初めて知りました! ほっほーなるほど。ああなんだかおさまりがいい感じしますねえ。
挙げてくださってる本が近所の図書館にあるみたいなので、こんど読んでみます。グッジョブ、近所の図書館!
さらに「まる」と「かぎ」を別に考えるというのはまたおもしろいですね〜 なるほどーなるほどーなるほどねーー。いやーんたのしい☆ 目からウロコです。
またぜひ何か思いつかれたらご紹介くださいね!

ucdさん | 2008/05/26 13:09 | URL [編集] | page top↑
#
>ucdさん
うわあ、ありがとうございます。
このブログ始まって以来の嬉しいコメントかもです。
勾玉三部作読んだら、勾玉調べたくなりますよね。私の場合は、それで大学まで行っちゃったただのアホですが・・・。
こんなマニアックな妄想で恐縮ですが、喜んで頂けて何よりです。
ユルリさん | 2008/05/26 22:08 | URL [編集] | page top↑

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